シリーズ前半では、“いじめ”は関係性の問題であり、根源の原因は各々が持つ“自己否定”だとお伝えしました。まさか“自分を否定すること”が“いじめ”につながるとは思いもしなかったのではないでしょうか。
そして、ショッキングなことかもしれませんが、“いじめっ子”も、“いじめられっ子”も「関係性のシステム」に当てはめると、両者は「対等」であることがわかるのです。いじめで辛い思いをされた方には受け入れがたい事かもしれませんが、あくまで“システム”でお話させていただきます。
シリーズ後半は、S君に起きたいじめを、ミロスシステムにより母と子で紐解き、自分たちの中からいじめを完全に終わらせていく様子をお伝えします。
『いじめの“システム”が見えた時、いじめは存在できなくなる(シリーズ後半)』
強くなる自己否定が…
急激な家庭環境の変化と度重なるストレスで、Oさんは精神的にも体力的にも少しの余裕もありませんでした。そして、息子を愛せなくなったことに悩み、時折、きつく当たってしまう自分を責めていました。
一方のS君も、家族に起きためまぐるしい変化により、母と引き離されたような感覚に戸惑っていました。そして、母に受け入れてもらえないと感じる度に、自分を否定する気持ちが強くなっていったのです。
そんなS君に、“いじめの危機”が迫っていました。
いじめが成立した原因
ある日、クラス内でS君へのいじめが始まりました。その水面下では、S君が自己否定に傾いたことで、“同質の自己否定”を持つA君(仮称)と引き合い、内向的なS君はいじめられっ子に、攻撃的なA君はいじめっ子になり、いじめが成立したのです。
母のことを思うとS君はいじめのことを打ち明けることができませんでした。しばらくの間我慢していましたが、とうとう耐え切れなくなり告白した時には、もう学校へ行くことができない状態にまで追い込まれていたのです。
同じような過去の体験
Oさんは、泣きながら訴えてきた息子に、昔、いじめに遭った時の自分が重なり、親も先生も誰も見方になってくれなかった、あの時の絶望的な気持ちを感じていました。あの子にあんな辛い思いはさせたくないと思い、学校に抗議するつもりでした。
しかし、S君には、いじめっ子や学校と闘う気持ちなどなく、Oさんは迷った結果、彼の気持ちに添って方向性を変え、再び通学できるように学校に協力を願い出たのです。
母と子でとったコミュニケーション
学校を休んでいる間、Oさんはいじめには一切触れず、「早く学校へ行きなさい」とも言いませんでした。
平日の空いた遊園地に遊びに行ったり、しばらくぶりに息子との時間を楽しみました。
また、毎朝、S君の話を聴きました。彼がどうしたいのか、いま何を思っているのか…これまで自分の気持ちを話す事のなかった息子の声を聴きながら自分を重ね、感じたことを話し合いました。
悪い面だけではなかった
普通なら、「どうしようか?」と思い悩む状況にいながら、S君にとって学校に行けなかったこの数日間は、とても楽しいものでした。
今まで辛いものでしかなかったいじめが、悪い面だけではないことがわかり、S君はいじめのことを考えなくなっていました。そして、休んだ分の授業の遅れを取り戻すと、再び学校へ通うことにしたのです。
いじめが終わる
すると、学校であり得ないことが起こりました。S君が学校へ着くなり、いじめっ子が駆け寄ってきて「ごめんね」と謝ってきたのです。
何もしていないのに、休んでいる間にいじめが終わり、その日から何事もなかったように学校へ通えるようになったのです。
いじめの経験があるOさんにとってそれは信じられない出来事でしたが、何かガラッと世界が変わってしまったような気がしたそうです。
“鏡のシステム”を知って
実は、息子のことを相談していた大学の先輩を通して、Oさんはミロスシステムに少しだけ触れていました。教えてもらったのは“鏡のシステム”でした。
自分の内面が表に“反転”し、目の前に映し出されるという“新しい考え方”は彼女の中に残り、自ずと物事の見方が変わっていたのです。今まで相手や出来事しか見えていなかった視線の方向性を“反転”させ、相手を通して自分を見るという実践で、こんなことが起きてしまったのです。
“原因因子”にエネルギーを注がなかった
また、他にも幸いしたことは、Oさん親子が誰とも闘わなかったことや、いじめという現状にフォーカスしなかったことでした。
普通は問題をなんとか解決しようとしますが、そうすることで問題をつくり出した“自分の中にある原因因子”にエネルギーを注ぐことになり、それがまた目の前に“反転”し、新たな問題を生み出します。
闘うことでさらに対立を生み出し、問題解決に走ることでその問題が長引いたり、繰り返したりするのです。
毎日を楽しんでいたOさん達の頭からは、いじめという問題が外れていました。原因因子にエネルギーを注ぐこともなく、勝手に終息に向かっていたのです。
“いじめ”をシステムで紐解くと
全く新しい次元を感じる体験をしたOさんは、ミロスシステムを本格的に学び出し、改めてS君と一緒に“いじめ”をシステムで紐解いてみました。
あの時、いじめに遭ったS君がA君に映して見ていたものは、自分を否定し攻撃する自分の姿であり、一方、A君は、自分の中にある嫌いなもの、許せないところをS君に感じていたのです。
いじめっ子といじめられっ子が“等しい”ことが分かれば、闘う必要もなくなります。こうして“全体図”が分かる“新しい視点”を持つことで、問題が存在できない世界で生きられるのです。
新しい生き方を手にした親子は…
Oさん親子の中で、いじめは完全に終わりました。それ以来、S君は積極的になり、クラス代表や児童会で活躍するようになりました。
そして、OさんはS君と共に、いじめのない社会のために、今回の体験を活かしミロスシステムを発信しています。
社会を変容できるシステム
いかがでしたでしょうか。
実際にこの“いじめのシステム”を小中学校の教師が子供たちに話した結果、学校からいじめがなくなったという報告がたくさん寄せられています。
確かに、緊急を要する場合は早急に対処しなければなりませんが、根源から終わらせ、実践者に新たな生き方を生み出すミロスシステムにより、必ず社会は変わっていきます。
(終わり)