“新次元の大人と子供の関係学”の3回目の今日は、保育園で幼い子供たちのお世話をしているある女性(Mさん)の体験です。
あらゆる面で親や周りの大人に依存しなければならない幼い子供にとって、大人の考え方や認識は、それ次第で人生が左右されるほど大きな影響力を持っています。
今回ご紹介する実証例のMさんも、ミロスシステムに出会い、その重大さに気づくことができました。
情報があふれかえる社会だからこそ、自分が何をどう受け取っているかに意識的になる必要性と、見ている対象物との“間(関係性)”に映る“自分の情報”をどう捉え、何を“認識”するかによって目の前の世界が変わっていく様子を、Mさんの体験に基づきお伝えします。
『新次元の大人と子供の関係学(3)保育の現場から 大人の認識が反映する子供の世界』
自閉症のS君
Mさんが保育園でパート勤務を始めて半年が過ぎた頃、次年度から障害を持つ子供(S君)のお世話をサポートする仕事が回ってきました。
その子について彼女が得た情報は、軽い自閉症があり発達が遅れていること、言語能力が著しく低いこと、パニックを起こしやすくパニック時には噛みつくこと、昼食や昼寝もみんなと一緒にするのは困難だろうという、気が重くなる事ばかりでした。
その上、先輩保育士からは「資格を持っていない人に任せていいのだろうか」という批判的な声も上がり、4月からのことを考えると胃が痛くなる想いでした。
先入観をもたないように
4月、入園式当日―。Mさんが初めて見たS君の印象は“まるで宇宙人”でした。それには、実はこんな経緯がありました。
S君を担当することが決まった時、障害児について勉強しようと思った彼女は、副園長から“S君は軽い自閉症で…”と聞かされただけで、まだ会ってもいない彼を“自閉症者”として見ていることに気づき、驚きました。
Mさんは、頭から“自閉症”という一括りの情報で彼を見てしまうことで、そのままのS君を見ることができなくなることを懸念し、あえて知識を入れるのをやめたのです。
先入観をもたないように
先入観を持たない彼女にとってS君は、他の子供たちとはひと味違う個性を持つ“宇宙人”のような存在でした。
そして、宇宙人S君はMさんの心配をことごとく裏切り、素直に言う事を聞き、すぐに彼女にもなつきました。昼食や昼寝についても取り立てて問題にすることもなく順調に保育園生活に慣れていきました。
パニックを起こし…
あまりにも順調なため、入園前に聞いていた彼の情報は少し大袈裟だったのかもしれないと、担任と話していた時でした。S君がパニックを起こしたのです。
おやつの時間になっても手も洗わずに遊んでいる彼を、Mさんは言い聞かせようとしましたが無理でした。抱きかかえて手洗い場に連れて行き、しばらくの間にらみ合いが続きました。
そこへ彼を迎えに来た母親と祖母が、必死になだめましたが全く静まらず…。申し訳なさそうに我が子を連れて帰ろうとする母親と祖母の間で、S君は玄関で靴を投げ捨て、叫び声をあげながら帰っていきました。
子供時代の母との関係性
その様子に、Mさんが感じたものは、子供時代の“自分と母の関係性”でした。他人からどう見られるかを常に気にして躾に厳しかった母と、その母に抵抗感を持っていた自分。
世間体ばかり気にして、自分の気持ちをわかってくれない母を憎み、怒られる度に私は愛されていないのだと思っていました。
しかし、当時の事をミロスのシステムに当てはめて見ると、母に対して感じていた“世間体”は、実はMさんの“無意識”であり、他人の目を気にして自分を厳しくジャッジし、いろんな制限を自分に与えていたのは彼女自身だったことがわかりました。
普段から自分のことをジャッジしている彼女は、その自分の姿を母に映して見ているため、母に責められているように感じていたのです。
そして、“私の気持ちをわかってくれない”という母への怒りは、実は周囲を気にするあまり自分の声を聴けない自分に向けられた“心の叫び”だったのです。
無意識の誤った情報を初期化する
もし、Mさんがシステムを知らなければ、障害児の親の大変さを感じるだけで終わっていたかもしれません。それ以前に、自閉症という世間の概念や自分のイメージでS君を見ていたなら、彼が持っている可能性を潰していたかもしれません。
しかし、目の前の対象物に感じたものを人生を開く“キーワード”として見ることで目の前の世界を変えていくことができます。
システムに当てはめ紐解くことで、無意識の誤った情報は初期化され、母は自分を愛しているからこそ厳しく躾けたのだという“本当の情報”を得た彼女の人生は、過去に遡り新しく書き換えられたのです。
新しい情報が映し出されて
すると、パニックを起こした翌日、登園したS君は今までにない“男らしい”表情に変わっていました。Mさんは思いました。今度は新しい自分の情報が映し出されたのだと。
その後のS君の変化はめざましく、言葉については入園から3か月経った頃から、一文字から二文字と少しずつ増え、「アンパンマン」など単語を話せるようになると、もの凄い勢いで言語能力が高まっていきました。
友達にぶつかりそうになった時には「ごめん」と謝り、0歳児の保育室を覗いては「赤ちゃん、かわいいね」と言うなど、その場その場に適した言葉が自ずと彼から出てくるようになったのです。
S君の変容
そして、5か月目を迎えた頃、彼は4歳になりました。お誕生日会では、誇らしげに主役の台に立ち、名前や年齢、好きなお友達などインタビューに応えられるまでになっていました。
自分の意思も表現するようになり、自由奔放に遊ぶS君…。そんな彼の姿は、Mさんが子供の頃にしたくても出来なかったことでした。
Mさんは、S君を通して感じることをそのまま自分に重ねて自分の情報として受け取っていくことで、彼女の中にあった誤った情報は初期化され、それに伴いS君も日に日に変容していきました。
入園当初、Mさんのことを頭文字の「ま」しか言えなかったS君は、今では「M先生」と苗字で呼んでくれます。
この道50年で、これまでにたくさんの保育書を執筆し、講演活動もしている副園長も、S君のような子供は初めてだと感動しているそうです。
活気にあふれた毎日へ
そして、彼女の変化はそれだけではありませんでした。自分を愛せるようになり、子供が変わり、職場環境が変わり、誰からも愛される存在になっていきました。
先輩保育士からも認められるようになり、保育園からも絶大な信頼を得て、活気に満ちあふれた毎日を送っています。
子供社会は大人社会の反映
いかがでしたでしょうか。この世界は、自分の中にある情報が目の前に映し出される世界。
それゆえに、自分にやって来た情報をどう受け取るかによって、見える世界は変わっていくのです。
近年、子供にまつわる問題は、一昔前では考えられないほどの異常さを増していますが、子供社会は大人社会の反映です。実は子供たちから大人社会に向けて鳴らしている警笛なのです。
子供たちに映し出される無意識の声に耳を傾け、大人が全く新しく変わらなければならない時が来ているのではないでしょうか。
(終わり)