結婚して専業主婦になり、社会から取り残されたような疎外感に悩む女性は、世の中にたくさんいるのではないでしょうか。
また、「女性は結婚したら自分の思い通りに生きることができない」という古い結婚観にとらわれ、結婚を取るか仕事を取るか…人生の大きな選択肢に悩んでいる女性も少なくありません。
今回の実証例は、そんな女性たちにとって、人生を見直す大きなヒントになるでしょう。
『子育てと家事と…日々葛藤する女性たちへ』【前半】
“デキる女”だったFさん
独身時代、大手電機メーカーでバリバリ仕事をこなしていたFさん。女性目線の企画センスが認められて自分のアイデアが商品化されるなど、輝かしい実績を積み上げていました。
社内で “デキる女” で通っていた彼女の辞書に「不可能」の文字はなく、どんなに難しいことにも挑戦し、なにがなんでも達成してきました。
“社会に貢献している自分”
“会社から必要とされている自分”
無理をしてでもそうやって認められることに最大の充足感を感じ、満たされた毎日を送っていました。そんなFさんに運命の男性との出会いが訪れます。
運命の男性と出会って
出身大学も職業も彼女とはまったく畑違いの彼 ─ 自分と比べようがないので、“デキる女” を演じる必要もありませんでした。仕事でもプライベートでも常に肩ひじを張って生きてきた彼女を初めて解放してくれたのが彼だったのです。
次第に彼の人間性に惹かれていったFさんは結婚を決意します。彼女はもともと結婚に抵抗感はなかったので、心から安らげる彼との空間があれば仕事と家庭を両立させ、さらに飛躍できるような気がしていたのです。
ところが結婚して間もなく、夫の急な転勤のために泣く泣く会社を辞めることになりました。“デキる女” のポジションを手放し、最もなりたくなかった専業主婦になることに抵抗感はありました。
しかし、じたばたしたところで、どうにもなりません。気持ちを切り替え、今度は誰もが憧れる “デキる妻” を目指しました。
せっかく “気負わなくてもいい相手” を生涯のパートナーに選んだのに、結局、誰かと競い合い、周りから認められる “何者か” になろうとする生き方をやめることができなかったのです。
“素敵な奥さん”になるために
Fさんは、専業主婦という新しい人生のスタートラインに立ち、全体のバランスを考えることもなく全力疾走を始めました。
彼女はまず、“デキる妻” のバイブルを探しました。料理の経験もほとんどなかった彼女が “デキる妻” になるための最初の課題は、“完璧に家事をこなすこと” でした。
さっそく目を付けたのは、新米主婦をターゲットにした女性誌でした。彼女はそこに登場する “素敵な奥さん” をコピーしはじめたのです。
朝、夫を会社に送りだした後は、苦手な家事に悪戦苦闘する毎日が続きました。夕飯の支度に3、4時間かかっても、夫にはそんな苦労は一切見せることなく “デキる妻” を演じ続けました。
他人が見たら「少しくらい手を抜いたらいいのに」と思ったことでしょう。しかし、彼女のプライドが決してそれを許しませんでした。“できない” イコール “主婦失格” であり、自分の存在理由まで失ってしまうような大ごとだったのです。
毎日、家事を通して “できない自分” を見て “できる自分” を演じることが、本当に苦しくてたまらなかったそうです。
子育てでも…
やがて、娘が生まれました。家事はどんなに頑張っても、なかなか評価されないものです。しかし、子供は違います。
「子供が優秀な子に育てば自分の評価も上がる」
そう考えたFさんにとって、子供こそが評価を得るための “自分の作品” になってしまったのです。
優秀な作品を作り上げるために育児本を読みあさり、娘を幼児教室に通わせました。そこで子供に出された課題をこなすことが母である自分の “ノルマ” になりました。“完璧な母” を目指した彼女を待っていたのは、子供の評価に一喜一憂する生活だったのです。
蓄積された感情が長女に
彼女はその後、2人目の子供を出産します。子供が1人のときはまだ余裕があった彼女も、2人になるとさすがに自分のキャパシティを超えました。それでも、“デキる妻” “完璧な母” になりたかった彼女は、夫が手を差し伸べてくれても、決して受け入れることができませんでした。
家事や幼児教育と並行して2人の子供を育てる ─ 完璧にこなそうとすればするほど、どれもがお手上げ状態になり、本当に何もできなくなってしまいました。
それまで彼女は一切、弱音を吐くことなく頑張ってきました。しかし、このときばかりは彼女の中に蓄積されていた感情が “はけ口” を求めて一気に噴き出し、立場の弱い長女に向かったのです。
女の人生に価値はあるの?
娘に辛辣な言葉を吐き続けたFさんは、ふと我に返ったとき、自分が恐ろしくてしかたがなかったそうです。そのとき彼女は、心底、女に生まれてきたことを悔やみました。
「女の人生になんの価値があるのだろうか…。私はなんのために生きているのだろうか…」
もはやどうすることもできない極限状態に追い込まれた彼女は、このあと、ミロスプログラムに出会います。
(シリーズ後半へつづく)