この世の真理を求め、悟りの世界がどこかにあると信じて宗教や精神世界を探求し、世界中の聖地を旅する人は少なくありません。しかし、“これこそ答えだ” と思えるものに出会っても、どこかで疑問を抱いたり、なにか未消化なものを感じている人は多いのではないでしょうか。
そこで今回は、何事も “善” に即して生きようとした女性(Kさん)の体験をもとに、人間がはまり込んでいるこの世のトリックに触れていきます。
システムを知らないがゆえに、どんな世界をつくり出しているのか。生き方を見直すきっかけにしていただければ幸いです。
『“答え”のない世界からの脱出』【前半】
父の暴力が……
子供のころから家庭でいろんなことがあり、修道女をめざすほど “善人” になりたかったKさん。常に自分の行いを戒め、後ろめたさがまったくない潔白な生き方を意識して生きていました。しかし、そんな努力もむなしく、彼女はいっこうに幸せを感じることができませんでした。
Kさんの両親は普段から喧嘩が絶えませんでしたが、中学生のころからそれが一段とひどくなりました。彼女はその光景を見るのが辛くて、ある時、二人の仲裁に入りました。しかし、そのことが父の感情を逆なですることになり、それ以来、父の暴力はKさんたち子供にも向けられるようになってしまったのです。
必死に反撃するも、彼女の力では到底かなうはずがありません。言葉で歯向かいますが、火に油を注ぐだけで、父の怒りはどんどんエスカレートしていきました。
家の中は夫婦や親子の争いが絶え間なく続く “戦争状態” になり、ときには包丁が飛び交うほどの凄まじさでした。部屋に鍵をかけなければ怖くて眠ることもできない…そんな地獄のような毎日が続いていたのです。
家族全員が疲れ果て、それぞれが先の見えない真っ暗闇の中で死んだように生きていました。それでもKさんは、一歩外に出ると何事もないような顔をして笑って過ごしていたそうです。それほどまでに、Kさんは “悪” を嫌い、“善” を求めて生きていたのです。
善を追求しても
あるとき、彼女はこんな疑問を持つようになります。
「この世に本当の幸せはあるのだろうか?神様はいるのだろうか?どうして地獄のような毎日を生きなければならないのだろうか…?」
その答えを探し求めて、彼女はさらに善に傾倒していきました。善を追究して生きていれば、その先に必ず答えがあると信じていたからです。
しかし、状況はいっこうによくなりませんでした。むしろ、一所懸命やればやるほど息を止められるような苦しみに襲われました。Kさんは自分の中で増長する闇を打ち消そうとして、より強く善に力を注ぎましたが、悪の力のほうが強く、否定的な考えに占領されていったのです。
いつしか彼女の心はカラカラに乾き切っていました。
立てた誓いを自ら破ることに
自分の中から湧き上がってくる嫌な感情と闘うことに疲れたKさんは、無意識のうちに否定的な感情を遮断するようになりました。悪を打ち消し、自分の中の善だけを感じて生きるようになっていたのです。
目の前に浮かび上がる “幻想のオアシス” を求めて、宗教や精神世界、善を感じるあらゆるものを勉強しました。インドやヒマラヤなど、世界の聖地も訪れました。
「これだけ頑張ったのだから、きっと良くなるはずだ」
それでも、結局、答えを見つけることはできませんでした。やがて大人になり、親になったKさんは、今度は子供のことで悩まされることになります。自分が親との関係性で苦しんできただけに、彼女は、「あんな親には絶対になるまい」と誓いを立てて生きていました。
しかし、あるとき、その誓いを自ら破る出来事が起こりました。それをきっかけに、彼女は “自分の人生が全く良くなっていない” ことに気づいて愕然とします。
シリーズ後半では、窮地に追い込まれたKさんがミロスプログラムに出会い、変容を遂げてゆく様子をお伝えします。
(シリーズ後半へつづく)