「一日中、“食” のことが頭から離れない。まるで何かに取り憑かれたように食べ物を胃の中に詰め込み、過食のあとは、自分の中に居座る悪魔を追い出すかのように吐き出していました」(主婦Hさん)
摂食障害はストレス社会が生み出した現代病ともいわれ、特に女性に多く発症し、命を落とす危険性もあります。年々増加傾向にあり、深刻な社会問題となっています。最近では、脳の仕組みと深い関係性があることもわかり、治療に向けて研究は進んでいますが、その一方で完治するのが非常に難しい病ともいわれています。
今回ご紹介する実証例は、10代で摂食障害を発症し、20年間苦しんできたHさんが、ミロスプログラムによって克服し人生を再生させた体験です。彼女はなぜ摂食障害を発症し、いかにしてそれを終わらせることができたのでしょうか。
『摂食障害からの脱出』【前半】
20年間の摂食障害
食べたいからではなく、虚しさを埋めるために過食し、食べた後も虚しさや罪悪感から逃れるために嘔吐する。吐いたあとは何もなかったかのような気分になるが、心の奥底にある孤独感、虚無感から逃れることはできず、また過食に走る。過食のせいで体重が増えると、人の目が気になって外出もできない…。そんな生活が20年間も続いていました。
Hさんが摂食障害を発症したのは19歳のときでした。なんとかして終わらせようと、哲学、成功本、ヒーリング、心理療法など、あらゆるものに答えを求めましたが、どうしてもやめることができませんでした。実際、拒食時と過食時に脳内麻薬といわれる物質が放出されるせいで、薬物中毒のような状態に陥ってしまうそうです。
彼女は病院やカウンセリングにも行きましたが、そこでは先生の顔色を伺い、先生を喜ばせようとして “いい子” を装い、本音を話すことができませんでした。そのため、逆に治療のせいで疲れてしまい、長続きしなかったそうです。
なぜ摂食障害が発症したのか?
また、「こんな自分になってしまったのは親が悪い」「あの人のせいだ」と原因を見つけても、見つけた分だけ虚無感が大きくなっていくだけでした。彼女は、出口の見えない闇の中をずっとさまよっていたのです。
そもそも、なぜHさんは摂食障害を発症したのでしょうか。その背景にはこんな家庭環境がありました。
子供の頃から両親の仲が悪く、母に対する父の暴力が絶えませんでした。そして、息子(Hさんの兄)からも暴力を受けるようになった母を見て、Hさんの中に、男は女をいじめる加害者、女は被害者という関係性がつくられたのです。
私さえ頑張れば
暴力に耐え続ける可哀想な母を守るため、家族間の喧嘩を止めに入ることが彼女の役割となり、彼女自身、そこに自分の存在価値を見出すようになりました。自分がいなければこの家は崩壊してしまう…そう思った彼女は、こんなことを考えるようになったのです。
「私はいい子でいよう。そして、弱い母を私が守っていく。私さえ頑張れば、家族は幸せになれるのだから」
しかし、その想いとは矛盾した感情も同時に彼女の中に存在していました。家族の仲良さそうな光景を見ると、どこか疎外感を感じていたのです。
無意識に不幸を望んでいた
実は、彼女は家族の幸せを望んでいながら、“無意識” では幸せになることを望んでいなかったのです。なぜなら、幸せになってしまうと喧嘩を止めに入るという自分の役割を失い、自分の存在理由がなくなってしまうからです。
このように、人間は自分では絶対にわからない無意識が反転した世界に生きているのです。
そして、もっと驚くべきことは、“守ってあげなければならない弱い母” は、実は不幸を望む彼女の無意識がつくり出した幻想の母であり、救われていないのは、他でもない彼女自身でした。
“救われない自分” に気づかず “いい子” を演じていた彼女は、さらにこの世のトリックの渦中に飲み込まれていったのです。
「いい子でいなければならない」「家族のために頑張らなくてはならない」
無意識にインプットされた想いに、彼女は自覚のないまま動かされていました。良い学校へ入り、良い会社に就職し、家にお金を入れることで家族の役に立ち、みんなが笑顔でいられると信じて生きていました。
発作的に過食へ
しかし、ある日、Hさんは頭が真っ白になるほどショックを受ける出来事がありました。そうやってHさんが渡していたお金を、母がHさんの将来のために貯金していたことが分かったのです。
「私はなんの役にも立っていなかったの?私は、いてもいなくてもどっちでもいいんだ…」
彼女のそれまでの人生も彼女自身も、一瞬で無意味で無価値なものになりました。そして、その大きな欠乏感を紛らわそうと、発作的に過食に走ったのです。それ以降、会社にも行くことができなくなり、摂食障害に苦しむ生活が始まりました。
自分をコントロールできなくなっていった
これが “この世の同化と反転のトリック” に取り込まれた人間の人生です。マイナス面を隠して頑張ってきた彼女は、一瞬にして人生が土台から崩れ去るほどの挫折を体験したのです。
やめようと思ってもやめることができない。そのことがさらにストレスとなり、過食と嘔吐を繰り返します。ダメな自分、醜い自分を隠し、外では理想の自分を演じるものの、一人になると自分をコントロールできなくなり、また過食に走る…。
「一生、私はこのままなんだろうか…」
出口の見えない闇の中で、彼女はうずくまるのでした。
(シリーズ後半へつづく)