なにか問題が起きたとき、私たちはその状況をなんとかしようとします。しかし、目の前の状況(部分)にとらわれることで、問題解決からどんどん遠ざかっていきます。
今回ご紹介する実証例は、小学生の息子に起きたトラブルを抱えながら、ミロスプログラムを学んでいた母親(Sさん)の体験に基づいています。彼女が “全体を見通す視点” からその状況を観たことで、学校の校則までもが変わり、“全員が喜ぶ環境” へと変容していった様子をお伝えします。
『問題を瞬時に超えていける視点』
自分のせいで…
ある日、Sさんの小学6年生の息子がひどく落ち込んで学校から帰ってきました。理由を聞くと、階段で友人たちとボール遊びをしているところを先生に見つかってひどく叱られ、ルールに違反した罰として、1学期の間、6年生全員がボールを使うことを禁止されたということでした。
「自分のせいで、みんながボールを使えなくなった。 僕がいなければこんなことにはならなかった」
彼は自分を責め、存在を消してしまいたいと思うほど罪悪感に怯えていました。
楽しいことをしたいという欲求から、子供がルールを破ってしまうことはよくあることです。しかし、彼のように、ルールに違反した “行為” ではなく、“自分の存在” に罪悪感を持つと、罪悪感から生まれるネガティブな感情に飲み込まれて、その状況に向き合えなくなってしまいます。
あなたは悪い子ではない
そこで、Sさんは彼にこう話しました。
「階段でのボール遊びは確かに危険だし、その行為は叱られても仕方がない。でも、自分を悪い子だと責めることはないのよ。先生に “おまえは悪い子だ” と言われたとしても、先生は伝え方が上手じゃなかっただけなのよ」
悪いのは行為であって、自分は悪い子ではなかったことに納得した彼は、もう一度先生に謝ってボールを使えるようにしてもらうために手紙を書き、翌日、元気に学校へ行きました。
先生の理不尽な態度
ところが、今度は彼の言葉が先生の罪悪感を刺激してしまったのです。
「ボールを取り上げた俺が悪いというのか!気分が悪い!帰れ!」
先生は激怒し、手紙は破られ、彼は追い返されてしまいました。先生の理不尽な態度に怒りと悔しさでいっぱいになり、泣き叫ぶわが子 ─ Sさんはそれを見て、「子供を傷つける大人は許せない!」と一瞬怒りがこみ上げてきたそうです。
関係性を紐解くと
しかし、ミロスプログラムを学んでいた彼女は、すぐさま怒りの感情から離れ、目の前の状況しか見えていない視点から、“全体”を見通せる視点に戻りました。そして、息子と先生、息子と自分との関係性を紐解いていったのです。
息子を傷つけた先生に対する「大人が子供を傷つけるなんて許せない!」という怒りは、実はSさん自身が子供時代に大人の言動によって傷ついた “無意識の怒り” でした。
“大人は信じられない” という彼女の人間不信が “関係性” に映し出されていたのです。
自分のことを責めながら、相手のことも責める息子と先生の関係性 ─ 彼女はそこに、自分に対する “無意識の罪悪感” のせいで自分を無意識に責め続ける自分の姿、そして同時に、誰かを責める自分の姿を見たのです。
結局、息子に起きたトラブルでさえも、目の前に起きている争いごとはすべて自分の内側の葛藤でした。
このように、全体を見通せる視点に次元置換すると、自分では絶対にわからない内側(無意識)まで見えてくるのです。
先生の意見
自分の内側の世界が外側に反転していたことがわかったSさんは、その認識で先生の意見を聴いてみようと思い、学校に電話をかけました。
「すみません、お母さん。心配されたでしょう」
受話器の向こうには、息子から聞いていた理不尽な先生は存在していませんでした。先生は丁寧に説明してくれました。
「来年中学生になり、反抗期に入る子供たちに、自分の欲求を律する強い心と、行動を顧みて反省できる素直な心を養ってもらうために、6年生を受け持つ教員全員で指導にあたっています。先日の罰は厳しかったかもしれませんが、結果的には、それが子供たちのためになると信じています」
先生方にしてみれば、子供が間違った方向へ行かないようにするための指導方針だったのかもしれません。しかし、子供にしてみれば納得のいかない支配的な制度に感じられたことでしょう。
無意識が映っていた
今回のように、子供が自分の存在に罪悪感を持ってしまっては、本末転倒です。良かれと思ってやっていることでも、それが一方的であれば、たくさんの盲点をつくりだしてしまうのです。
先生の話を聞いて「これが従来の教育か…」と感じたSさんは、突然、ハッとしました。なぜなら、この情報さえも “彼女の内側にある情報” だと気づいたからです。
「そうか!これが私の中にあるルールであり、こだわりであり、モラルなのか!自分でも気づかないうちに自分を抑圧し、否定しているのかもしれない。また、息子を無意識のルールで支配していたのかもしれない…」
こうして、Sさんは先生の立場になって学校側の意見を受け取り、さらに、それを自分の無意識として受け取っていったのです。
先生がまるで別人に
すると、突然、先生がこう言いだしました。
「お母さん、話を聴いてくださってありがとうございます。お母さんのような存在は私たち教師の支えになります。息子さんに電話を代わってもらえますか」
電話に出た息子は、先生の変容ぶりに目をまるくしながら、楽しそうに話していました。そして、電話を切ったあと、先生がまるで別人になっていたことや、6年生全員に息子が書いた手紙をシェアしてほしいと頼まれたことなど、嬉しい展開に母子で興奮したそうです。
学校が変わった
翌日、6年生に向けた彼の話を、先生方は口を挟むことなく聴いてくれたそうです。そして、その日から連帯罰システムは見直され、罰を与えるのではなく、子供がみんなで話し合い決めていくシステムに変わったのです。
いかがでしょうか。まさか、自分の内側(無意識)を受け取っていくだけで、周囲の状況が変わっていくとは思いもしなかったのではないでしょうか。
“外側の世界” と “自分の内側の世界” を見通す高次な視点に次元置換することで、問題を瞬時に超え、環境を思い通りに変えていくことができるのです。
(シリーズおわり)