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なかなか抜け出せない”共依存”のトリック 【後半】

Rossco’s Eyes ~人生を俯瞰する視点~ Vol.22


Introduction

前回の配信では、依存症者が依存症から脱出するには、何かに依存しなくてはならなくなった自分の心のメカニズムを理解することと、もうひとつ、依存症者のそばにいる共依存症者との “関係性” を理解しなければならないことをお話しました。

関係性は、“同質の心の傷” を持つ者同士が引き合い出会い成立していますが、この “仕組み” を知らないことで、“トリック” にはまって苦しんでいます。

後半は、共依存の関係性に長年苦しんだある夫婦の実証例から、夫を支えていた妻の立場から関係性のトリックを紐解いていきます。

『なかなか抜け出せない”共依存”のトリック』

アルコール・精神薬へ依存し暴力をふるう夫

アルコールと精神薬への依存がひどく、満たされなければ暴力で攻撃してくる夫との関係性に悩むAさんという女性がいました。Aさんは何度も離婚を試みたものの、その度に夫から「別れないでくれ」と懇願されたり、暴力で抑えつけられたりしていました。そしていつの間にかその生活に麻痺し、十数年もの年月が経っていました。

はたから見れば、なぜ離婚しないのだろうか、本当に別れようと思えばいくらでも方法はあるのに…と思いますが、共依存症者は相手の中に自分の存在価値を感じているため、なかなか関係性を終わらせることができません。たとえその相手と別れることができたとしても、その関係性をつくりだす自分の傷が消えたわけではなく、再び共依存の関係性にはまっていく人が非常に多いのです。

目の前に映るのは“隠れた自分”

共依存の関係は、依存する者とその人をサポートする者で成り立っています。表面的に二人は真逆に見えますが、本人たちに自覚のない世界で、同質の傷が磁石のようにカッチリと引き合っています。いうなれば、片方は正極を前面に出し、もう片方は負極を前面に出してくっついている磁石のような状態。しかし、それぞれの後ろ側にはもうひとつの磁極があり、それを目の前の相手を通して見ているという仕組みです。

つまり、Aさんを共依存症者にしている“後ろに隠れた自分” を知ることが、この関係性を終わらせる “鍵” であり、それを教えてくれているのが、実は “目の前の夫” なのです。では、Aさんは夫をどう見ているのでしょうか。

自覚の無い過去の傷

自己否定が強く、寂しがりやで誰かを頼らないと生きていけない。他人に甘えるくせに、思い通りにいかないと自暴自棄に陥って感情的になる。Aさんはそんな夫を醜く思い、軽蔑しながらも、自分を必要としてくる夫を哀れに感じて見捨てられずにいました。つまり、それがAさんの全く自覚していないもう一人の自分です。

「目の前の哀れな夫が自分?」

最初はショックを隠せないAさんでしたが、それを自分に向けた時、彼女は過去に封印した痛みを初めて思い出したのです。

自分には価値がないんだ……。もっと頑張らなくちゃ。

幼い頃、精神的に不安定で感情に溺れてしまう母の姿に醜さを感じ、そういう人間を否定する気持ちが今のAさんの生き方をつくったのです。一方で、母親に甘えることができなかったAさんは“本当は母に甘えたい” という欲求を心の奥に追いやり、また、母からの愛を感じたことのなかった自分の存在を否定していたのです。

そして、そんな心の傷を抑圧している自覚がないまま、大きな心の傷を埋めようと、人から評価されることで自分の評価を上げていたことや、“母に愛を求める目” で他人を見て、愛してもらえるように相手に合わせていたことに気づいたのです。

見た目は自尊心が高く “しっかり者” に見えるAさん。ご自身も自分のことを自立した人間だと思っていたかもしれません。しかし、実は主体性がなく、いつも人の感情に左右され振り回されていたのです。自分の存在価値を感じたいがために “自分に依存してくれる相手” をつくる。そして、目の前の相手に映る “可哀相な自分” を放っておけなかったのではないでしょうか。

自己否定の鎖から解かれる

こうして、自分が共依存にはまっていた心のメカニズムや、関係性のトリックを客観的に見ることができたAさんは、今までに感じたことのない安堵感の中で、目の前にいる夫を見つめることができたのです。

「愛して欲しいのはこの私だった…」

これまで依存症の夫が悪いと否定してきたけれど、私が自分を否定していたのだと気づき、涙があふれてきたそうです。この時、Aさんの中にあった闇が夫を通して明るみに出て、光が当たって消えました。闇が消えたことで、それが押し出していた従来のAさんも消えてしまったのです。

夫の依存が終わった

その日の夜、帰宅した夫は、まるで憑き物がとれたかのように人相が変わっており、声からも邪気が抜けていました。それ以来、夫に暴れられることも、攻撃されることもなくなり、驚いたことに夫から療養すると言いだし、ひと月後には精神薬も飲まなくなったのです。

苦しいときは将来に希望など持てずにいるのが普通です。しかし、すべては関係性のトリックの中で起きている事象。トリックを知り、なぜそういう関係性に陥ったのかを理解することで、目の前の状況は変わっていきます。

システムを知れば人生は必ず変えられる—。未来の可能性があることを、少しでも頭の中に置いていただければ幸いです。

(シリーズ終わり)

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