前回より、両親が離婚してから33年間、父親と一切連絡を取ることがなかった女性（Ｔさん）のケースをお伝えしています。

ある女性が “システム” の体現者として人生をリセットし、再生させる体験談を読んだTさんは、それを自分の人生に重ねました。その結果、長い間、心の中で切り離してきた父のことを再び愛おしく感じることができ、とても癒された気持ちになれたといういきさつをお話しました。

後半の今回では、いつも第三者の体験談を “自分の中にある情報” として読んでいたＴさんに起こった奇跡の体験をお伝えします。

『自分の人生の”再生”が、同時に世界を変えていく』

切り離したのは “私” ？

次にＴさんを惹きつけたのはＢさん（女性）の体験談でした。Ｂさんは父との関係性が希薄で「自分は父に愛されていない」と思い、ずっと寂しさや孤独感に苦しんでいました。しかし、“システム” を知った彼女は、体験談のなかで次のように告白していました。

「父の言葉や行動の奥にある本当の想いを理解できず、父に切り離されたと思い、愛されることをあきらめてきた。しかし、実は、切り離したのは “私” のほうだった」

Ｔさんにとって、この言葉は今までの人生観に大転換が起こるほど衝撃的なものでした。

33年前、父が家を出て行った日。玄関まで見送りに行った自分に何も語らず、振り返ることさえせずに出て行く父を見て以来、Ｔさんはずっと「私は捨てられた」と思ってきました。今でこそ当時の父の辛い気持ちを理解することができても、まさか “自分から切り離した” とは思ってもいなかったはずです。

自分が“捨てた父” にした

子供と別れることが辛くない親はいません。もう会えなくなるかもしれない娘の方を振り返ることができなかったのは、後ろ髪を引かれる思いを振り切らないと、前に進むことができなかったからではないでしょうか。それでも、Ｔさんはそんな父の姿を見て「捨てられた」としか思えませんでした。

ところが、それは自分の思い込みであり、実は父をそんなふうに見たとき、すでに “自分が父を切り離していた” のです。自分の中に “愛されていない” という思い込みがあり、その思い込みが “自分を捨てた父” をつくりだしたのです。自分が切り離していたことを受け取ったＴさんは、33年前のあの日の父と自分をしっかりと抱きしめました。

自分の感情を嫌い、明るい自分を演じてきたBさん

さらにＴさんは、Ｂさんの体験談を通して自分と母の関係性を客観的に見ることができ、ここでも衝撃的なことに気づいていきます。精神的に弱い母を支え、その境遇をバネに「自分はしっかりしなくてはならない」と自立してきたＢさんでしたが、本当は母を救いたくても救えない心の葛藤と、母に依存されることで支配される重さに苦しんでいました。

そして、母に対してネガティブな感情を抱く自分のことを嫌い、その感情を心の奥に追いやり、感じられないようにしていたのです。感情を遮断し、コンセントを抜かれたロボットのようになってしまったＢさんは、無機質な自分をさらに嫌い、そのコンプレックスをバネにして表向きは明るく元気な自分を演じていました。

Ｔさんも、母への感情を遠ざけていた

両親の離婚以来、Ｔさんは母のことを気遣い、父のことを話題にすることは一切ありませんでした。しかし、辛い感情と一緒に父の存在を封印してきたのと同じように、実は母に近づくことにも恐怖があり、母に感じるネガティブな感情を遠ざけ、母を切り離して生きていたのです。

そんな彼女でしたが、“システム” に出会い “自分と父”、“自分と母” の関係性を客観的に見たことで、すべてが自分の思い込みから始まったドラマであることを知りました。

“切り離し”が終わると繋がる

「本当は、父と母は一度も離れることなく、ずっと私の中に存在していたのだ…」

こうして父と母を受け取った瞬間、33年前のあの日から現在にいたる “親子の時間” は全く新しく塗り替えられました。Ｔさんに奇跡が起こったのは、その直後のことです。

突然、携帯電話に見知らぬ番号からの着信が…

「○○○か？（Ｔさんの名前）」

「はい…」

Ｔさんには、それが父だとすぐにわかりました。電話から聞こえてくる父の声に、33年前の父の顔、父の匂いが鮮明によみがえります。あのとき聞くことのできなかった “父の想い” ─ それを時空を超えて、父が話す言葉の中に感じることができたのです。

「父との会話はあまりにも普通で、まるで何事もなかったかのように、長い空白を感じることもなく楽しむことができました」

かつては自分の生い立ちを嫌って生きていたＴさんですが、今ではすべてが “本当の愛を知るためのかけがえのない経験” に変わり、人生観も180度転換してしまいました。彼女は今、“新しい親と子の時空間” を創造しています。そして、彼女の体験はこの瞬間にも誰かに幸せを届けていることでしょう。

“目の前の世界をどう見るか”

「自分を取り巻く外側の世界は、その中心にいる自分の内側（内的バランス）の投影である」

人生をリセットし再生させるシステムの根幹を理解し、第三者に起きた体験談をいつも自分の情報として受け取る ─ そうすることで、Ｔさんは “絡まった親子の糸” がほどけ、内側が整うのを体験しました。それが今回の奇跡の再会を生み出したのです。

自分の外側の世界は自分の内側。“目の前の世界をどう見るか” で人生は大きく変わるのです。

（シリーズ終わり）