今の世の中、簡単に離婚する人が増えています。夫のこういうところが許せない、妻がこうだからと、憎しみ合い、攻撃し合いますが、実は夫婦間の戦いを生み出しているものは、各々が意識の奧に抱えている葛藤が原因なのです。せっかく巡り合えた大切な人を失わないためにも、今回の実証例がヒントになれば幸いです。
これからご紹介するのは、結婚2年目のある夫婦(夫 Y男 30代 妻 M子 40代 神奈川県)の体験です。惹かれ合い一緒になった二人ですが、結婚したら、相手の嫌なところばかりが目につきだし、じわじわと夫婦仲に亀裂が入り出しました。
『夫婦間の戦いは、自分の内面戦争から生まれている』
お互いに抵抗感を持っている夫婦
夫のY男は、東大卒で、技術系の分野で高い知識を持つインテリ男子。そんなY男から見た妻のM子は、無知で、感情的で、いつもイライラさせる存在でした。そして、彼女の、他人の評価を異常に気にするところや、自分の立場を確保しようとして、仕事や家事を頑張っているところにも、強い抵抗感を持っていました。
一方、妻のM子は、明るく社交的で、正義感が強く、常にポジティブな女性。そんな彼女から見た夫は、プライドが高く閉鎖的。そして、高慢で、自分のこだわりから職種にも格差をつけるため仕事が長続きせず、稼いでこないことにイライラしていました。また、普段は優しくても、突然見せる冷酷さや、夫の、女性に対する憎悪と被害者意識には、抵抗感を持たずにはいられませんでした。
夫婦関係は日に日に悪くなり…
そんな二人に、一旦火がつくと、M子は自分でも抑えることができないほどの怒りが吹きだし、夫を激しく攻撃しました。Y男は、妻に何を言われようと、感情的になり自分の弱点を知られるのが嫌で、怒りをぐっと堪えて、ひたすら耐えていました。しかし、心の中では「女って本当にバカだな」と妻を見下し、それがM子にも伝わるため、夫婦関係は日に日に悪くなっていきました。
世間では、一旦こじれた夫婦関係を修復することは難しいと言われています。しかし、実は夫婦は、互いに自分では見えない無意識の姿を映し合う“究極の鏡”のような存在なのです。うまくいかなくなるのは、自分の最も嫌なところ、隠しているものを、相手を通して見せつけられるからです。
彼らは、夫婦でミロスシステムのカリキュラムを受けていくなかで、自分の内面の葛藤が、夫婦の戦いを生み出していることを知っていきました。
夫の子ども時代
高学歴で技術系のスキルをもっているY男は、その肩書きを砦にして、自分を守っていることを知ります。子ども時代―。Y少年が興味を持っていたものは、芸能やスポーツでした。しかし、父は、うちにはお金がないと言って諦めさせておきながら、学業に関するものには惜しみなくお金を出してくれました。
母は、うるさく言う人ではありませんが、怒ると手が出ることもあり、母の誤解から理不尽に怒られることが多かったと言います。彼の女性に対する憎悪や被害者意識は、ここから生まれていました。
また、Y少年から見ると、母は父のことを拒絶しているように思え、父はただお金を稼ぎ、母は家のことをするという利害関係で成り立っている夫婦だと思っていました。息子の自分のことでも、両親はどこか無関心で、何か相談しても常識的な答えしか返ってこないことに、不満と不安を感じていました。
家庭の中で愛を感じられなかった彼は、自己肯定感が低く、その上、自分の希望を諦めざるを得ない出来事を何度か体験するうちに、どうせ言っても聴いてもらえないと思い込み、高校進学時には、周囲の大人に自分の想いを話すのも面倒になっていました。
そして、厳しい受験戦争の中で、相手に勝つことしか考えなくなった彼は、勝利することがステイタスになり、高学歴、高い知識が自分の価値を証明するものになってしまいました。自分に対する評価を上げるために、いろんなものを身につけ、肩書きにしがみつき、誰かを見下すことで精神のバランスをとっていたのです。
妻の子ども時代
妻のM子は、いつも明るく元気に振る舞っていましたが、そんな彼女からは想像もできないほど、実は自分のことを嫌っていました。子どもの頃から、男女問わず友だちも多く、学級委員をするほどリーダーシップももっていましたが、そうやって誰からも好かれるような生き方を身につけなければならないほど、自分に自信がなかったのです。
幼い頃から、自分の気持ちや考えを話すと、よく父から「バカなことを言うな」と否定されていた彼女は、わかってもらえないという思い込みから、父の顔色を伺うようになり、聴いてもらえることしか話さなくなりました。
また、毎日ケンカばかりしている両親の間を取り持とうとしましたが、自分の無力さを思い知らされ、自己否定感は大きくなるばかりでした。
こうして、彼女は自分の本音を閉ざして、人から好かれるように、認められるように、いつも明るく元気な自分を装ってきたのです。
なぜ攻撃しあっていたのか?
こうして観てみると、Y男とM子は心に同じような傷を持ち、自分を否定し、その自分を守ろうとして生きてきたことがわかります。しかし、どんなに頑丈な砦を築こうと、パートナーには自分の隠し持っているものが映し出されてしまいます。
そして、夫は妻に、感情的で理不尽に怒られた母を、妻は夫に、自分のことをわかってくれなかった父を映し、自分の古傷に触れてくるパートナーを攻撃していたのです。
自分とパートナーが全く同じであり、内面の葛藤がうまくいかない夫婦関係を生み出していることがわかったら、もう相手と戦うことも、砦で自分を守る必要性もなくなりました。夫婦の間にあった抵抗感というフィルターも取っ払われ、パートナーの素晴らしいところが見えてきたのです。
パートナーはなくてはならない存在へ
妻は聡明で、料理の腕前も素晴らしく、とても可愛らしい女性に変わりました。夫は、素直に自分を表現するようになり、本当は妻の気持ちを受け入れようとしてくれていたこともわかりました。
ミロスを実践していく中で、二人の間に信頼関係が生まれ、今では、パートナーは、なくてはならない存在にまで変わってしまいました。そして、安心感の中で素直に気持ちを表現し合い、自分を知れることに喜び、閉ざされた不自由な世界から一緒に抜け出し、どんどん軽くなっていく自分たちの変化を楽しんでいます
(終わり)