家庭内で起こるDVは、それを見ている子供にも深刻な影響を与えます。
前半では、Fさんの “子供時代の親との関係” が原因で、彼女が “同質の愛の欠乏感と自己否定” を無意識に持つA男に出会い、2人の間にまでDVという関係性が成立していたことをお伝えしました。
子供の頃、父から母への暴力を目の当たりにして心に大きな傷を負ったFさんは両親を嫌い、外の世界に幸せを求めるようになりました。
そして、誰からも愛されようとして “いい子” を演じて生きていました。しかし、結局は父と母の関係と同じように交際相手(A男)から暴力を振るわれる “DVの関係性” に陥ってしまった…。
後半の今回は、そんなFさんの実体験に基づき、DVや家族間の暴力が世代を超えて引き継がれる “仕組み” をお伝えします。
『DVという関係性からの脱出』【後半】
DVは母と同じ体験だった
前半でお伝えしたように、A男に感じていた “強烈な愛の欠乏感” が実は自分のものだったとわかったとき、Fさんは、なぜ自分がDVとストーカー行為を体験することになったのか、その “仕組み” を理解することができました。
そして、自分が母と同じ体験をしていたことにも気づいたのです。
毎晩のようにお酒を飲み、会社でたまった鬱憤を晴らしていた父。母に辛辣な言葉を吐き、少しでも気に入らないことがあると怒鳴りながら殴りかかっていました。
その父と母の姿を思い出したとき、そこに “自分とA男” の姿が重なり、彼女はハッとしました。あれほど両親の関係性を嫌っていたはずなのに、自分たちがそれと全く同じ関係性にはまっていたからです。
Fさんは、さらに自分の人生を紐解くことで、親の体験を子供が繰り返してしまう “仕組み” を知っていきました。
誰からも愛されるために…
厳しい家計をパートの収入で支えながら、父の暴力に耐えていた母のストレスは相当なものでした。そして、そのストレスのはけ口になっていたのがFさんたち子供でした。
まだ幼いFさんが母親の気持ちを理解できるはずもなく、自分たちをヒステリックに叱る母を見て、彼女は自分の家庭に何も求めることがなくなっていきました。
「この家にいても幸せになれない…。早く自立して出ていこう」
Fさんは、それだけを考えて生きていました。
家庭では味わうことができなかった幸せや愛情を外の世界に求めるようになり、誰からも愛されるために、いつも笑顔を絶やさない “いい子” を演じつづけました。
人生が狂わされていた
努力して自分を高め、プラス思考で頑張った彼女は、学校を卒業後、就職して念願の一人暮らしを始めます。やっと手に入れた平穏な生活に、ささやかな幸せを感じていました。
しかし、まったく気づかないところで、人生の歯車は狂いはじめていたのです。
A男と出会い、DVを体験した彼女は、人生を立て直せないほどひどく傷つきました。しかし、ミロスシステムを学んだことで、悲劇をつくりだした “仕組み” を理解しました。
そして、人生をつくり上げている人間の “内面” の構造を理解することで、どんどん癒やされていきました。
そうしてシステムを通して人生を紐解くことで、彼女は人間の人生を狂わせているもっと大きな “仕組み” があることを知っていったのです。
“同化と反転のトリック”に陥っていた
Fさんは親を反面教師にして、幸せになるために真面目に努力してきました。しかし、結局、彼女は親と同じ関係性を体験することになってしまいました。
実は “幸せになりたい” という彼女の表層意識を押し出している想い ― 親のようにはなりたくない ―が “反転” して現実の世界に現れたことで、親と同じ関係性に陥っていたのです。
これが “同化と反転のトリック” です。
愛情が感じられない子供時代
実は、Fさんの父と母も親の愛情を感じられない子供時代を過ごし、寂しい想いをして育っていました。きっと彼女の両親も、不幸な子供時代をバネにして、幸せな家庭を築こうと努力していたのではないでしょうか。
しかし、同化と反転のトリックの中でその願いは反転し、家庭がうまくいかなかったのです。
彼女の両親も、自分たちが嫌っていた両親(Fさんの祖父母)と同じように夫婦の関係が壊れてしまい、自分たちが経験した辛い子供時代を我が子にまで体験させるはめになったということです。
家族の悲劇が紐解けた
ほんの些細なことで “愛されていない” と思い込み、その誤った思い込みでつくられた心の傷が “愛されていない” と感じる出来事だけを拾い集める ─ その繰り返しが “愛の欠乏感” と “自己否定” をつくり上げ、終わりのない悲劇のドラマを生みつづけていたのです。
同化と反転のトリックの中では、もがけばもがくほど深みにはまります。今回のような事件に発展するなかで、FさんもA男の家族も、このトリックの中で苦しんでいたことを理解したのです。
DVという体験を通して彼に感じた “孤独感” “愛の欠乏感” は自分のものであると同時に、父が抱えていた苦しみでもありました。ミロスシステムにより、ずっと繰り返されてきた家族の悲劇が紐解けたことで、彼女は自分の中に先祖の想いを感じることができたのです。
家族の悲劇の終演
「父と母も、祖父母も、その前の先祖も、本当は子供を愛し、家族を愛し、幸せになろうとして頑張っていた。本当は誰も悪くなかった。ただ仕組みを知らなかったばかりに苦しんできただけなのだ…」
彼女は、自分の中で苦しみの物語が終演していくのを感じました。
それ以来、Fさんの家族はまったく変わってしまいました。DVの体験をきっかけに17年ぶりに実家に戻り、家族と一緒に暮らすことになったFさん。
今、かつての自分が求めた以上に幸せな家庭生活を体験しています。自然に笑い合う父と母、一緒にテレビを見ながら語り合う家族…なんの変哲もない家族の団らんがたまらなく愛しいそうです。
(シリーズ終わり)