人生がうまくいかない人をカウンセリングすると、その多くが子ども時代の親子関係で辛い体験をしています。その時の感情が、今の行動、思考の動機になっていることが多く、いつまでも感情に翻弄される人生から抜け出すことができないのです。
今回ご紹介する実証例は、無意識の感情に翻弄されてきた人生を、ミロスシステムで紐解き、自分を封印した生き方から表現者へと変容し、刺繍作家として歩き始めたある女性(Oさん 40代 埼玉県)の体験です。
『遺伝子が喜ぶ人生を創造する ~感情に翻弄された生き方をリセット~』
刺繍作家になったOさん
まっさらな布に、刺繍糸を針で通すごとに、ファンタジーな世界が広がっていく。降り注ぐインスピレーションを、目に見える形にしていく作業は、まさにエキサイティング!まるで細胞内の遺伝子が、「私のやりたかったことはこれだ!」と喜び舞っているようにさえ感じると、Oさんは言います。
40代後半にして刺繍作家となった彼女は、いま創作活動に大忙しの日々を送っています。しかし、つい最近までは、自分を否定する思考に囚われ、心を閉ざして生きていたのです。
担任教師からの酷い仕打ち
Oさんの生い立ち― 物心ついた頃から、癇癪持ちの父の顔色をうかがい、家の中で小さくなって過ごしていた子ども時代。小学校でも、4年間に渡り、担任の女教師から酷い仕打ちを受けていました。先生に気に入られるように行動しても、クラスで一番の成績を出しても、担任からのいじめ行為は酷くなる一方で、毎日のように怒鳴り散らされていました。
クラスメイトに救いを求め、訴えたこともありましたが、彼女に返ってきたのは、独裁者(担任)を恐れ、無関心を装う、みんなの死んだような視線でした。この時、「私は何をしても、誰からも愛されないのだ」と強烈に感じたOさんは、心を閉ざしてしまいました。
心の闇が現象化する
その後、中・高・短大と、表面的にはごく普通の学生生活を送りましたが、彼女の隠した心の闇が現象化し出したのは、就職して社会人になった頃からでした。
もともと体が丈夫ではないOさんにとって、会社勤めは辛い修行のようなもので、人間関係にもストレスを感じていました。そして、心の虚しさや不足感を埋めるように恋愛に走りましたが、相手の態度に冷たさや抵抗感が湧くと、すぐに関係性を断ち切るように終わっていました。そんなことを繰り返すうちに、心の闇はさらに大きくなり、自分を全否定する思考の渦に飲み込まれていきました。
人生をリセットしようと、何度か職場も変わりましたが、待遇はどんどん悪くなるばかり。ストレスから、ついにパニック障害を起こし、鬱を発症し、退職を余儀なくされました。
手芸の世界が唯一の救い
やがて死を考えるようにもなり、「このままではいけない…」と、見つけた唯一の救いが、手芸の世界だったのです。
パッチワークや刺繍をしている時だけは、自分を否定する思考を忘れることができました。しかし、ふとした時に気持ちが落ち込み、どうしても闇の中から抜け出すことができませんでした。そんな生活を何年か過ごしたのち、彼女はミロスシステムに出合います。
「これなら変われるかもしれない…」希望の光を感じ、ミロスのカリキュラムを受けていくうちに、なぜ人生がうまくいかないのかが、わかっていきました。
抱えていた“怒りの爆弾”
これまで、無意識に、人に好かれようと“いい人”を演じてきたOさんは、人に合わせてばかりで、自分を生きていなかったことを知りました。
また、忘れていた子ども時代の記憶もよみがえり、家庭内に充満していた“怒り”の感情を鍵にして、ミロスシステムで、自分と父の人生を紐解いていくうちに、二人共に“怒りの爆弾”を抱えて生きていたことがわかったのです。
父の子ども時代
Oさんの父は、赤ん坊の時に、母(Oさんの祖母)の友人宅に里子に出されました。3歳の時に里親の父が亡くなり、実母の元に戻されますが、すでに弟が生まれていたこともあり、自分の居場所がありませんでした。
そして、兄弟の中で一人だけ食事を与えてもらえなかったり、体罰を受けたり、母から酷い扱いを受けることもあったそうです。
母(祖母)はヒステリックで、カッとなると何をするかわからないところがあり、父も、母親の前では委縮していました。その父の子ども時代と、自分の子ども時代がピッタリと重なったのです。
父と自分の体験が一致している
祖母と父の関係性が、父と自分の関係性と同じであること。また、祖母に1人だけぞんざいな扱いを受けた父の体験と、小学校の担任から理不尽ないじめ行為を受けた自分の体験が、一致していることにハッとしました。
父も、Oさんも、愛して欲しい人に愛してもらえなかったという不足感を抱え、淋しさから憎しみが生まれ、その感情がさらに愛を感じられない世界をつくり上げていきました。
父は、母(祖母)のようにはなるまいと思いましたが、自分の家族から“愛されない”と感じるものを拾い集めてしまい、幼児期から抱えていた憎しみ、怒りを、妻やOさんにぶつけていました。
そして、その父を憎んだOさんも、父を反面教師にして穏やかに生きていたつもりが、無意識に、誰からも愛されない自分を攻撃し続けていたのです。
代々引き継がれてきた“憎しみ”や“怒り”が…
祖母から父へ、そして自分へ。代々引き継がれてきた“憎しみ”や“怒り”も、俯瞰して観れば、愛を渇望する叫びでした。本当は誰もが愛し、愛されたかったことがわかった時、Oさんの心から氷の塊のようなものが溶けていったのです。
彼女の変化と同時期に、父から激しさは消えていき、母からは、父の愚痴を聞くこともなくなりました。Oさんも、本格的に刺繍を学びだし、どんどん才能が開花していきました。
自分の道が開きだした
苦悩した人生も、ネガティブな感情も、ミロスの実践により、創造性を生み出す源泉に変わり、彼女の表現も大きく変化していきました。
また、未来に導かれるかのように繋がった様々な縁を通じて、Oさんの想いはどんどん具現化し、「この世界で一本立ちするぞ!」と決心した彼女に、直ぐに、刺繍作家としての道が開いたのです。
自らの力で人生は創造できることを、体現しているOさんはこう言います。
「父と母のもとに生まれたからこそ、この人生がある。本当に“私”でよかった。遺伝子が喜んでいるのを感じます」
(終わり)