成功とは何でしょうか。
お金がたくさんあること、大きな家に住んで高級車に乗ること… 自由に旅行をすること、名誉ある仕事をすること、有名人になってチヤホヤされること…。
特に男性は、このようなことを “成功” とみなして追い求める傾向が強いようです。なぜなら、そもそも男というものが “自らの能力によって達成された結果”によって “自己を証明” しようとするからです。
しかし、本当にそれで満足することができるのでしょうか。実は、男性が求めるものとは全く違う方向性に “成功の秘密”が隠されていたのです。今回は、成功を求めて続けてきた一人の男性(Mさん)が、“真の成功とは何か” を知った体験を紹介します。
『男が求めた成功は、すべてパートナー(女)の中にある』【第1回】
頑張れば結果はでる!
3歳の頃から野球の英才教育を受けてきたMさんは、常に優秀な成績を出す子供でした。小学校時代に地区代表に選ばれ、中学校時代には全日本選手権に選抜されるほどの活躍ぶりでした。父親に「お前はやればできる子だ」と言われ続けてきた彼は、その言葉通りに自分を認識していました。
「一生懸命やれば、必ず結果が出せる」
Mさんはこの信念をもとに真面目に頑張り続けました。そしてあるとき、全国的に野球で有名な某有名校にスカウトされ、進学することになりました。
「頑張れば必ずレギュラーになれる」
その信念のもとで努力を怠らなかった彼は、早くも1年生の頃からレギュラー争いをするほど期待されていました。
父子の夢は甲子園
彼には父と共有する夢がありました。それは、“全国高校野球選手権大会” への出場。
彼の父は貧しい家庭環境で育ち、食事もまともに取ることができなかったそうです。
「自分の子供にはよい思いをさせてやりたい。野球を通してたくさんの友達をつくり、いい学校へ進学し、いい人生を歩んで欲しい…」
そんな願いから、Mさんに野球の英才教育を受けさせたのです。甲子園出場は、まさに父子二人三脚で歩んできた人生の大きな目標となっていました。そして、高校3年生の夏、ついにその夢が叶ったのです。
いよいよ大会の時
大会が開幕し、彼の高校はベスト8まで順調に勝ち進んでいきました。
そして、ベスト4入りをかけて迎えた試合。熱い攻防が続くなか、最終回・表を終えても同点のまま動かず — 後攻の相手チームに1点でも取られたら、その場で “負け” が決まる厳しい状況です。
両チームの関係者はもちろんのこと、ナイター試合となって電灯がともった球場全体は緊迫したムードに包まれていました。なんとか延長戦に持ち込もうとチーム全員が必死でした。
ところが、そんな緊張感あふれる試合は、Mさんが予想だにしないあっけない結末を迎えます。彼自身のエラーで、チームが “さよなら負け” を喫したのです。
「お前のせいで負けた!」
味方の大歓声が一瞬で悲鳴に変わりました。一方で、相手校とその応援団からは勝利に湧く歓喜の声が上がりました。Mさんには、4万2千人の観客を含むすべての声が、自分に向けられた非難の声にしか聞こえませんでした。そして、球場に渦巻くその声の中に、はっきりと彼に向けられたひとつの声があったのです。
「お前のせいで負けた!」
その時、彼の野球人生は幕を閉じました。
「やればできる」という “方程式” も崩れ去りました。夢は儚くも消え去り、打ち込むべき目標を完全に失った彼は強烈な虚脱感に襲われました。
“運が悪かった” というひと言で終わらせることはできるでしょう。しかし、実はそこに、彼が知らないうちに取り込まれていた “この世のトリック” が隠されていたのです。
彼にとって、好成績を出して父に喜んでもらえることは、とても嬉しいことでした。「父に認められている」「父に愛されている」と実感できるからです。しかし、本当は “できる子を演じる” ことで、父に認めてもらおう、愛されようとしていたのです。
増幅し続けたマイナスが
また、チームのなかで自分が上位のポジションに立てば、ライバルが下からどんどん上がってきます。いつポジションを奪われるかわからない不安と葛藤のなかで、“完璧な自分” でいることでしか、“自分でいる” ことができなくなっていました。
要するに、Mさんにとって野球とは心底好きで頑張っていたものではなく、自分の存在を認めてもらうための唯一の手段だったわけです。
彼は “自己存在の無価値感” というマイナスをバネにして、幼い頃から頑張り続けてきました。しかし、その背後ではマイナスも同時に大きく増幅し続け、それが甲子園という大舞台で “自分のエラーでさよなら負け” という非常に残酷な現象として表面化したのです。
しかし、当時のMさんは “この世のシステム” を知りませんでした。残酷な現実を体験し、敗北感、虚脱感、自分に対する無価値感という “さらに大きなマイナス” を抱えることになってしまったのです。
染みついた“やればできる”
その後、彼は大学へ進学します。しかし、それは自らの意思ではありませんでした。父のたっての願いがあったために、親孝行のつもりで決めたのです。
大学でも野球部に入りましたが、全国の高校から強豪選手が集まるために熾烈なポジション争いがあり、本当にやる気のある者しか生き残ることはできません。高3の夏で燃え尽きてしまったMさんには、もはやそれに見合う情熱はなく、思うような成績を出すこともできませんでした。
頑張る力もなく、結果も出ない毎日…。しかし、そんな状況にあっても、幼い頃から彼の体に染みついている“やればできる” という信念は、彼を踏みとどまらせるのに十分でした。彼は思いました。
“頑張らない自分” は人間失格?
「やっぱり頑張らないと成績は出ないんだ…」
それまで頑張ることによって自分を成り立たせていた彼にとって、“頑張らない自分” は人間失格のように思えました。彼の心にはびこるマイナスは大きくなるばかりで、大学にいることが無意味に思えました。そして、先輩との人間関係にも嫌気が差した彼は、ある夜、ついに大学寮を飛び出します。
実家へ戻る電車の中で彼の脳裏に浮かんだのは、甲子園で聞いたあの言葉でした。
「お前のせいで負けた!」
リアルな声が彼の中で反響し、憎しみや恨みが湧き上がってきました。
「あの声のせいで、僕の人生は狂ってしまったんだ…」「いつか必ず見返してやる!」
そう決意したとき、彼は “新たな目標” を見出したのです。
(シリーズ第2回へつづく)