最初の人間関係である親子関係がうまくいかなかった人は、他人との関係性もうまくいかないことが多く、その大きな要因は、親に感じていた“抵抗感”と同じものを相手に感じてしまうことにあります。友人関係、職場の人間関係、異性関係、夫婦関係…など、関係性が違っても、相手が変わっても湧いてくる抵抗感は、親に感じていたものと同じものなのです。
しかし、その抵抗感の正体は、実は親の意思とは関係なく子どもが勝手に思い込んだものが多く、その思い込みが解除されない限り、それが映し出される人生に振り回されることになります。
今回ご紹介する実証例は、子ども時代の親子関係でつくられた“思い込みの欠乏感”に翻弄されてきたある女性(Tさん 40代 大分県)の体験です。彼女はどうやって、“思い込み”が映し出される人生から抜け出すことができたのでしょうか。
『“無関心…”思い込みの欠乏感に翻弄された人生からの脱出』
無関心な夫
Tさんがミロスシステムに出合った時、子どもの借金問題に、離婚の危機…と、もう自分ではどうすることもできないほど深刻な状態に陥っていました。
しかし彼女は、“パートナー(夫)が自分の人生を開く鍵である”という話に強く引かれ、それが本当かどうかを確かめたくてミロスを学び出しました。
夫に怒りが噴き出す時、いったい何に怒っているのかと感じてみると、見えてきたのは“自分に対する夫の無関心さ”でした。
『この人は、私にまったく関心がないのだ…』
夫の素振りにそう感じた時、無性に腹が立ち、『どうせ私なんて…』と卑屈になる自分のパターンを初めて知ることができました。
子どもの頃の感情
そして、子どもの頃、父親にも同じような感情を抱いていたことを思い出したのです。
子ども時代-自営業を営む両親は、経営を切り盛りすることに手一杯で、常に苛々していました。特に父は厳しく、何か話しかけるといつも怒り口調で返されたため、何も話せなくなり、Tさんは「父は私のことなんてどうでもいいのだろう…」と思うようになりました。
家族の団らんもなく、会話のない家庭のなかで、彼女は“臆病者”を演じて親の関心を引こうとしますがうまくいかず、いつもよその家族を見て、親子喧嘩さえうらやましく思っていました。
外に愛を求め続けた
そんな彼女も大人になり結婚します。子どもの頃に得られなかったものを、自分の結婚で取り戻そうとしますが、思うようにはいきませんでした。
間もなく夫は家に帰ってこなくなりました。仕事が終わるとギャンブルに行ったり、時には車中で寝泊まりしたり…そんな生活が3年も続き、とうとう耐えきれなくなったTさんは、自分を愛してくれる人を外の世界に求めるようになりました。
人の道に外れた行為だとわかってはいても、彼女は衝動を抑えることができず、自分を受け入れてくれる男性に依存し、まだ幼い息子を親にあずけてまで家をあける日が続きました。
そして、夫と離婚することになった時、息子に対して申し訳なさを感じてはいましたが、彼女は面倒な感情を切り捨てて、その後も外へ外へと愛を求め続けたのです。
息子が問題を起こすようになった
息子はそんな母の寂しさをわかっているかのように、いつもTさんの気持ちを第一に考えてくれたそうです。しかし、彼女が再婚した途端に、いろんな問題を起こすようになりました。
特にお金がらみの問題が多く、親のお金を盗んだり、ギャンブルでお金を使いこみました。また、「継父からいじめられている」「親からひどい仕打ちをうけている」と嘘をつき、可哀想な子どもを演じて周囲から同情を買うようなこともしていました。
こうなって初めて、Tさんは深く後悔しますが、過去に遡ってやり直すこともできず、私のせいでこの子の人生をダメにしてしまったと、自分を責めました。
家族関係がどんどん悪くなり…
その後、学校を卒業した息子は、地方の会社へ就職しますが、社会人になっても借金問題をつくり、そのうち連絡もとれなくなってしまいました。また、息子が家を出てからは夫婦の会話もなくなり、次第に関係性も悪くなっていったのです。
ミロスシステムにこれまでの人生をあてはめ俯瞰したことで、子ども時代に父に感じた「無関心さ」という“欠乏感”が映し出された人生に翻弄されてきたことがわかりました。そして、その欠乏感は彼女だけではなく、息子にまで引き継がれていたのです。
Tさんが愛に走ったのと同じく、息子は欠乏した愛情をお金で埋めようとしていました。また、彼女が“臆病者”を演じて親の関心を引こうとしていたように、息子は問題を起こすことで母の関心を自分に引こうとし、嘘をついてまで周囲の同情を集めようとしていました。
欠乏感が消える
しかし、Tさんはミロスシステムを学ぶことで、子どもに無関心な親はいないということにも気づくことができました。子育てに後悔し、罪悪感に苦しむほど、自分は息子のことを愛していたことを知ったからです。
『私は息子を愛していたんだ…』『そして、私も両親から愛されていたのだ…』
そう感じた時、彼女の中から「無関心」という思い込みの欠乏感は消え去り、同時に、外の世界に愛を求める気持ちも消えていました。
家族再生へ
思い込みが消えたことで夫の見方も変わり、夫婦関係が変わり、「離婚話」はなくなりました。
そして、互いにパートナーに感じるものを通して、無意識の思い込みやこだわりを知り、いろんなしがらみから解放されていくなかで、音信不通だった息子からも連絡があり、今、確実に家族が歩み寄り、再生されていることを感じる毎日を送っているそうです
(終わり)