いじめ、不登校、学級崩壊…近年、教育現場の混乱に悩み、休職に追い込まれる教師が急増しています。文部科学省の調査によると、休職者のうち2割が退職しているそうです。
学校内の複雑な人間関係によるストレスが主な原因のひとつだと言われていますが、実はそこには、自分と相手との “関係性” に全く自覚のない本当の問題(原因)が隠れています。
今回ご紹介する実証例のSさん(女性)も、ある出来事をきっかけに中学校講師を辞めることになりました。しかし彼女は、その体験があったがゆえに、ミロスシステムを通して人生を紐解くことができました。“なぜこんなことになってしまったのか” ─ その “仕組み” を知ることができたのです。
一時は社会復帰することも厳しい状況にありましたが、今までの人生をリセットし、復活。再び教壇に立つことができました。Sさんの体験に基づいて、彼女の本当の問題は何だったのかをお伝えします。
『学校現場の混乱、本当の問題とはなにか』【前半】
中学校の教師へ
Sさんは十数年前から講師として、おもに高校で教鞭をとってきました。正規の教師ではありませんが、仕事内容は教師も講師も同じ。教育の分野ではベテランの域に入っていました。
しかし、講師は1年更新の契約であるため、雇用の保証がありません。離婚を経験していた彼女は仕事と収入を安定させたいという思いで一念発起し、見事に教員試験に合格しました。
ただ、職場として選んだのはそれまで慣れ親しんだ高校の教師ではなく、中学校の教師 ─ しかも経験のない科目を選択しました。しかし彼女は、なぜ自分がそんな選択をしたのか理解できませんでした。そして、そんな複雑な心境のまま、新しい教師生活に飛び込むことになったのです。
生徒たちと心が通じ合わなくなり…
赴任してすぐ、一年生の担任と部活の顧問を受け持つことが決まりました。初任者の彼女には指導教官がつき、授業の構築や研修など、毎日朝早くから夜遅くまで多忙な業務をこなしました。それまでの経験が全く通用しないため、想像以上に大変で戸惑うことも多々ありましたが、彼女はそれでもなんとか頑張っていました。
しかし、次第に生徒たちと心が通じ合わなくなり、思うように授業ができなくなっていきました。そして、Sさんに対する抵抗感や怒りのせいで、教室の空気はどんどん重苦しいものになっていったのです。
上司からの厳しい指導、毎日のように起こるトラブルと保護者への対応、複雑な人間関係…それまでにないストレスにさらされ、彼女は心身ともに限界にきていました。
教師としての能力
そんなある日、彼女に追い討ちをかけるように “教師としての能力” が問われる出来事が起こります。
その日は、指導教官や教育実習生もSさんの授業を見学に来ていました。彼女からすれば、授業を成功させて能力を認めてもらいたいところです。
しかし、どういうわけか、前日まで真面目に授業を受けてきた生徒までもが人が変わったように好き勝手に行動しはじめたのです。教室は目も当てられない、ひどいありさまになりました。Sさんはなすすべもなく、みじめな気持ちでいっぱいになったそうです。
休職を余儀なくされた
Sさんは授業の終わりに生徒たちに尋ねました。
Sさん:「今日はどうしてこんなことになったのだろう?」
生徒:「先生が悪い」「先生のせいだ」
子供たちから非難の声を浴びせられた彼女は、もうそれ以上、先に進めなくなってしまいました。子供が好きで、自分でも「教師に向いている」「仕事はできるほうだ」と思っていただけに、予想もしない最悪の展開でした。
その日の夜、指導教官から電話が入り、職員会議で現状を報告すること、そして、クラス全員にアンケートを実施し、保護者会を開くようにという指導が入りました。
それは彼女にとって “できない自分” を学校中にさらけだす、最も耐えがたいことでした。
その後、彼女は次第に体調に異変を感じるようになり、病院で受診した結果、休職を余儀なくされました。このまま無理をし続けたなら、教師はおろか社会復帰もできなくなる ─ そう診断されるほどSさんは追い詰められていたのです。
長男のひきこもり
休職中、彼女はしばらく何もしないで家にじっとしていました。世間一般で言うところの “ひきこもり生活” です。
実はそのとき、彼女の長男も、すでに6年近く家の中にひきこもっていました。彼がそういう状態になったのは、中学2年生の時に母親であるSさんが離婚してからでした。
当時、彼女は働きながら子供を育てることに必死でした。そんな大変なときに、長男が学校へ行かなくなったのです。
反抗的な態度をとるようになり、家庭の中は混乱し、彼女が気を休める場所はどこにもなくなりました。
ミロスシステムとの出合い
そうやってお金や子供のことで思い悩んでいたところ、彼女は友人を通してミロスシステムを知りました。
「この世に他者は存在しない、“すべては自分” である」という認識に基づき、目の前に見る相手や現象から “自分を知っていく” だけで人生がリセットされる ─ Sさんはこの “人間が全く新しく再生されるシステム” に惹かれ、実践しました。
“外側の世界”を変えようとしても…
しかし、「息子を変えよう」「現状をなんとかしたい」と思い、自分の “外側の世界” を変えようとしていた彼女には、いっこうに奇跡は起こりませんでした。長男は、高校へは進学しましたが、卒業後はずっと家にいました。
今回の学校の件でも、Sさんは、生徒に感じるネガティブなものを自分の中にあるものとして理解していたつもりでした。
しかし実際は、ここでも “生徒をなんとかしたい” と外側を変えようとしていたのです。彼らの行動はどんどんエスカレートし、状況は悪化するばかりでした。
“本当の自分”を知るプロセス
「いったい何が違うのだろう…?」
しかし、答えは見つかりませんでした。それでも彼女は「自分を幸せにするものはこれより他にはない」と思い、学び続けました。
Sさんの人生は、公私ともに試練と忍耐の連続でした。しかし、それは “本当の自分” を知り、その自分が本当に望んだ人生を見つけるためのプロセスだったのです。
(シリーズ後半へつづく)