結婚は我慢と忍耐とよく聞きますが、もともと全く違う環境で育った男女が共同生活をするのですから、不満が出てくるのは当然です。
しかし、パートナーに対する不満はいろいろあっても、あなたがパートナーに抱く“抵抗感”は、実はあなたが思っているものとはまったく違うところから生まれているのです。
今回ご紹介する実証例は、妻に抵抗感を持ちつつ、見て見ぬふりをしてやり過ごしてきたある男性(Tさん 40代 愛知県)が、ミロスシステムで抵抗感の源泉をつきとめ、夫婦関係が変わっていった体験です。
『夫婦が対立する原因は、思いもしないところにある』
妻の言動に嫌な感情が湧く
夫婦も長年連れ添うと、我慢や忍耐も当たり前になってきます。Tさんも、妻の言動に嫌な感情が湧いてきても、それを一々口にすることはありませんでした。
ところが、彼は無自覚にも、“やられたらやり返す”という行動を妻にとっていたのです。
例えば、仕事で夜遅くまで働いて帰ってきても、妻から労いの言葉の一つもない…。そんな時、Tさんは、妻の“冷たいあしらい”に対して仕返しをするかのように、自分もそっけない態度をとってきました。
こういう光景は夫婦間ではよくあることですが、放っておくと徐々に二人の関係性は悪くなり、取り返しのつかない状況を招くことにもなりかねません。
そうならないためには、嫌な感情から逃げずに、パートナーの何に対してどんな抵抗感を抱いているのかを知る必要があるのです。
どんな抵抗感を抱いているのか?
これまでTさんは、妻の“態度”に腹を立てていると思っていましたが、そうでないことを知り、いったい何に抵抗感が湧いてくるのかを感じてみることにしました。
「家族のために働いでいるんだぞ」「それなのに、そんな態度はないだろう」「本当に冷たいやつだな…」
そうやって感じていくうちに、
「かまってくれない」「無視をされている」「無関心さ」
というものが出てきました。
子どもの頃の母親への感情
そして、妻にそう感じる時に噴き出す感情が、子どもの頃に自分の母親に感じていたものと全く同じであることがわかったのです。
Tさんが小学生だった頃、母は美容師をしていました。オーナーではありませんが、固定客をたくさん抱える一番の稼ぎ頭で、毎日忙しく働いていました。
彼は小学校から帰ると、真っ先に母の働く美容院へ行き、「ただいま」と声をかけていました。しかし、お客さんの対応に集中している母は、彼の方を振り向くこともなく、どこか味気ない「おかえり」という言葉を返してくるだけでした。
彼から見れば、母は接客の合間に“ついでに”返事をしてくれているようにしか思えず、寂しい思いをしていました。
また、家の中でも、料理や掃除をしている時は、話しかけても母は振り向いてくれませんでした。何もしていない時でさえ、一瞬こちらをチラッと見るだけでした。
妻を通して母親に復讐していた
当時のTさんが母に一番望んでいたことは、いつも家にいてくれることや、自分の傍にいてくれることだったのではないでしょうか。
「こっちを向いて欲しい」「かまってほしい」と思うのに、いつも「無視をされている」と感じていた彼は、自分から母を奪った仕事を嫌い、いつしか自分の方を向いてくれない母を憎むようになっていました。
そして大人になり、妻に母と同じものを感じることで、妻に復讐し、同時に、妻を通して当時の母親に復讐していたのです。
また、結婚生活においてTさんは、経済的な事情など、妻が自由に外出できない原因をいくつもつくっていました。歪んだ形ではありますが、妻を家に閉じ込めることで、子どもの頃の母への欲求を果たしていたのです。
抵抗感の源泉は自分
こうして、妻に感じる抵抗感から自分の人生を紐解き、夫婦間に起こる対立の元となっていたものに辿り着いた彼は、自分も妻に無関心であったことを認め、最終的に、母や妻に感じていた「無関心さ」も、その源泉は“自分自身に対する無関心さ”だったことを知りました。
まさか、妻に母を映し見ていたとは思いもしませんでしたが、抵抗感の源泉が自分の中にあったことを知れたことで、それ以来、同じシチュエーションになっても、以前のように感情的になることも、嫌な感情のままやり過ごすこともなくなりました。
そして、そのたびに抵抗感が生まれるメカニズムの理解がより深まり、彼自身がどんどん解放されていき、夫婦関係にも変化が現れているそうです。
心の傷を終わらすことができる
いかがでしたでしょうか。
夫婦が対立する時、その原因は、“今、目の前に起きていること”ではなく、多くの場合、その出来事がきっかけとなり、子どもの頃の親子関係でつくられた古傷が触発され、当時の自分の感情がパートナーに噴き出しているのです。
その“仕組み”がわかれば、パートナーに感じるものを通して、自分の傷を完全に終わらせることも可能なのです。
世間には、互いに傷つけ合い、同じ家に住みながら心が離れている夫婦は少なくありませんが、そうならないためにもこの実証例がお役に立てば幸いです
(終わり)