DV(ドメスティックバイオレンス)といえば、男性から女性への暴力というイメージがありますが、その逆の女性から男性へのDVも少なくありません。そして、DVを完全に治すのは難しいと言われており、安定したように見えてもストレスがたまると再発し、以前よりももっとエスカレートしていく傾向があるのです。
今回ご紹介する実証例は、交際中の男性に対するDVをやめることができず、長い間苦しんでいたある女性(Hさん 50代 神奈川県)が、ミロスシステムにより、自分を暴力に向かわせていた本当の原因を理解し、DVを終わらせた体験です。
『DV問題を超える ~彼への暴力がやめられなかった本当の原因』
彼への暴力が止まらない
Hさんが交際中の男性に暴力を振るうようになったのは、今から約4年前のことです。つき合い出してから1年半ほど過ぎた頃、彼の気持ちが自分に向いていないように感じ出し、彼の口調にも、どこか責められているような気持になり、怒りが噴き出すようになりました。
そして、日増しに彼に対する抵抗感は膨らみ、やがて怒りを抑えきれなくなった彼女は、とうとう彼に手を挙げてしまったのです。
一度はじまった暴力は止むことなく、どんどんエスカレートしていきました。彼に暴言を浴びせ、殴り、蹴り、辺りにある物を壊しても、怒りは収まりませんでした。自分でもどうしてこうなってしまうのかがわからず、まるで何かに憑かれたように暴れ狂っていたのです。
日に日に彼は弱っていき、Hさんも、DV後は体調がひどく悪くなりました。「なんとかしなければ…」と、彼とコミュニケーションを取り、分かり合おうと努力もしましたが、お互いが自分の意見を主張するばかりで相手の話を聴かないため、結局、ぶつかり合い、暴力へと向かってしまうのでした。
体力的にも精神的にも限界をむかえ、このままだと、どちらかが命を失うかもしれないと思うほど酷い状態になっていました…。
“嫌いな自分”と闘っている
異性関係でも何でもそうですが、人間関係がうまくいかない人は“自分自身との関係性”が非常に悪く、低い自己評価を、相手を通して感じています。
Hさんが彼に感じているものも、実は自分が無意識に持っている自己評価であり、自分自身との信頼関係を取り戻さなければ、目の前の相手との関係性を変えることができないのです。
彼女がDVを終わらせようと、どんなに彼とコミュニケーションをとっても、悪循環に陥っていったのは、彼と向き合うほど、彼に映し出される“嫌いな自分”と闘っていたからです。
相手を通して“自分を知る”
では、どうしたら自分自身と信頼関係を持つことができるのでしょうか。それには、必ず“相手”が必要であり、自分が映し出される相手を通して、自分自身と向き合わなければなりません。
Hさんは、今まで暴力的な自分を何とかしようとして、自分と向き合っていると思っていただけにショックを受けましたが、自分が見ていたのは、低い自己評価がつくり上げた自分(自我)だとわかり、安堵も感じていました。
そして、いつもは感情的になり、彼の何に怒りを感じているのかもわかりませんでしたが、彼を通して“自分を知る”という視点をもてたことで、二人の関係性に思わぬものを発見していきました。
DV行為の原因は
Hさんは、彼に反論する時、毎回、同じ事を感じていました。
「私に指示しないで!」「認めてよ!」「責めないで!」「私だけを見てよ!」…と。
つまり、彼女の怒りは、彼に威圧感や自分への攻撃性、無関心、否定されたと感じた時に噴き出していたのです。そして、それは子供の頃、父に感じていたものとまったく同じものでした。
実は彼女は、子どもの頃から父との関係性が悪く、父の愛情を感じられずに育ちました。父を強烈に嫌い、父に愛されなかった自分を否定し、その欠乏感から彼に愛情を求め、精神的に依存していたのです。
しかし、自分を認めることのできない彼女は、彼に父と同じものを感じてしまいます。
「私を認めてくれない」「否定された」「私を見てよ」…と。
そして、自分を愛してくれなかった父への恨み、怒りが彼に噴き出し、暴言や暴力などDV行為に向かっていたのです。
しかし、父との関係性も、元はHさんの自分自身との関係性から生まれています。無意識に自分のことを否定している彼女が、自分に対する攻撃性や無関心さを父に映し見て、間違った自己イメージを持ち、“さらに自分を否定する自分”を、今度は彼に映し見て闘っていたのです。
心の中が平穏に
こうして、彼を通して自分自身と向き合えたことで、“愛されなかった”という思い込みは外れ、Hさんは、父の愛も、彼の愛も感じられるようになりました。すると、まるで憑き物が落ちたように心の中が平穏になり、彼が見てもまったくの別人に変わってしまいました。
長い間つづいた苦しみも嘘のように消えてしまい、自分自身との信頼関係を取り戻した彼女は、素直に自分を愛おしいと思えるようにもなりました。彼との関係性もまったく変わり、今では、彼はHさんにとって、なくてはならないかけがえのない存在になっています
(終わり)